天地淵(チョンヂヨン)瀑布~「韓国ではほぼ済州だけ」の天然記念物の生物から見える済州と日本の近さ
令和4年1月11日
「済州と日本のちょっといい話」は、2020年4月から2022年7月まで2年4か月にわたり済州で総領事を務めた井関至康前総領事が、済州の様々な場所と人々に出会い、済州道民の皆様からの協力を得て、取りまとめたものです。多様な分野で長い間続いてきた済州と日本の深い関係に触れる一助となれば幸いです。
※「済州と日本のちょっといい話」の記事内容は連載当時のものであり、一部内容は最新の状況と異なる可能性があります。
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日本から近い済州道には、日本と共通する生物も多数見受けられます。このことはこれまでも、榧の木やカンラン、日本の国蝶オオムラサキ、さらには済州と日本に共通する食材となる生物等について紹介してきましたが、韓国最南端に位置する済州道が棲息の北限地である、あるいは黒潮・対馬海流に乗ってやってきた等の理由で、済州と日本では棲息しているが韓国本土ではほとんど見受けられない生物も見受けられます。
済州島・西帰浦市「天地淵(チョンヂヨン)瀑布」で見られる天然記念物

西帰浦市中心部からほど近い、以前ご紹介した、西帰浦市と茨城県鹿嶋市の姉妹都市関係を記念した「日韓友好親善梅公園」から見渡せる景勝地「天地淵(チョンヂヨン)瀑布」は、実はこうした生物の宝庫。オオウナギ棲息地、ホルトノキ自生地、さらには同地の暖帯林と、生物としては3件が、韓国では稀少であるとして天然記念物に指定されています。井関至康総領事は、生物を通じた済州と日本のご縁を探るべく、西帰浦市のアレンジで、文化観光解説師の金貞任(キム・ジョンイム)さんにご案内いただき、天地淵瀑布を訪れました。暖帯林の類いは韓国本土でも見受けられるということで、今回は韓国では済州でしか見られない、残りの2件について紹介します。
天地淵は「オオウナギ」の北限棲息地

オオウナギは熱帯性の魚で、日本では利根川河口以西の太平洋沿岸や長崎県以南の東シナ海沿岸といった暖流の沿岸に生息地が分散して点在しているとのことですが、韓国では天然産のものは済州島にしかおらず、この天地淵が棲息の北限地になっているということです。当然ながら水中に棲息しており、また夜行性でもあるということで、実物を見ることはできませんでしたが、2021年4月に調査した際には、上の写真のオオウナギが確認されたということです。
地元の高齢者の皆さんからは、昔はここのオオウナギも捕って売ったり食べたりしていたとの証言もあったということです。今は天地淵は棲息地として天然記念物になっているので、当然そのようなことはあり得ないとの話ですが、東南アジア等から持ち込まれて養殖したものが韓国全体で食用魚として普及しているとのことでした。
韓国では済州島、それも西帰浦市にのみ自生する「ホルトノキ」

ホルトノキは、常緑樹ですが、葉の一部が黄色や赤に変色して年内を通じて落葉するのが特徴。日本では千葉県以西の太平洋沿岸を中心に、特に西日本では街路樹や庭木として普通に見受けられる木ということで、徳島県徳島市、大分県大分市、沖縄県浦添市で市の木に指定されています。
これに対し、韓国では済州島、それも南側の西帰浦市にだけ自生しており、この天地淵で多数見られる他、西帰浦市内の天帝淵(チョンジェヨン)、安徳(アンドク)渓谷、下記の江汀(カンジョン)集落等でも見受けられるということです。また、西帰浦市では、日本と同様に街路樹としても用いられているそうです。
自然の生物を通してもわかる済州と日本の近さ
済州は、日本から見ると、玄海灘を挟んで長崎県五島列島と最も近いところで約180kmしか離れておらず、黒潮・対馬海流の影響をもろに受けるという点でも、日本と共通するところ大です。文化や人的交流については、これまで様々な記事を通じて、済州と日本の近さを紹介してきましたが、今回、自然の生物を通じても、改めて済州と日本の近さに感銘を受けた次第です。天地淵瀑布は、かつては韓国の新婚旅行のメッカともされた有名な景勝地ですが、もし今後訪問される機会があれば、こうした目で景色をご覧になっても興味深いかもしれません。訪問関連フォト

△韓国では済州だけに棲息する国指定天然記念物で、日本にも棲息するものは、他にも見受けられます。韓国を代表する現代画家・李仲燮も描いた、西帰浦市街地の目と鼻の先にある森島。この森島に棲息するオオタニワタリは、日本にも棲息しているシダ植物の一種ですが、森島が自生の北限地であり、済州道はおろか韓国全体として森島にしか自生していないということで、韓国の天然記念物に指定されています。寒さに弱いオオタニワタリは、日本でも環境省レッドリストで絶滅危惧種として扱われている極めて稀少な植物ですが、北限地の森島においてはなおさらであり、森島はオオタニワタリ保護のために立入りが厳しく制限されています。

△ハマユウは、日本では黒潮沿岸に広く分布しており、宮崎県が県花に指定しているのをはじめ、多くの市町村がそれぞれの花に指定している、なじみの深い花ですが、韓国ではほぼ済州のみに棲息しています。その中で、済州島の北東に位置する兎島は、ハマユウの群落地として知られており、韓国の天然記念物に指定されています。

△ホルトノキに関してはもう1つ、西帰浦市江汀(カンジョン)集落のホルトノキも、天然記念物に指定されています。地元の神様を祀る「堂」である「ネギリソ堂」のご神木として、地元の皆さんから長年大事にされてきたものということです。なお、この木は、やはり天然記念物に指定されている道順里(ドスンリ)のクスノキ自生地の中にあるということで、二重の天然記念物という扱いであるということです。

△オオウナギについては、天地淵と同様に、日本でも、国の天然記念物に指定されている棲息地があります。和歌山県富田川水域と徳島県海部郡海陽町の母川水域の2件については、天地淵と同様に川が棲息地となっていますが、残りの1件の長崎県長崎市樺島については、なんと共同井戸が棲息地として国の天然記念物に指定されています。左上の写真の左下の部分がその井戸ですが、こんな天然記念物もあるんだと、驚かれる方もおられるかもしれません。(写真提供:長崎県)
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