済州グルメvol.8「カフェ」~済州と日本のこんなご縁も! ~「Maison de Petit Four」、「プルペゲ(草枕)」、「ハローキティカフェ」、そして…
令和4年1月27日
「済州と日本のちょっといい話」は、2020年4月から2022年7月まで2年4か月にわたり済州で総領事を務めた井関至康前総領事が、済州の様々な場所と人々に出会い、済州道民の皆様からの協力を得て、取りまとめたものです。多様な分野で長い間続いてきた済州と日本の深い関係に触れる一助となれば幸いです。
※「済州と日本のちょっといい話」の記事内容は連載当時のものであり、一部内容は最新の状況と異なる可能性があります。
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韓国では21世紀に入った頃から、カフェが至る所に目に付くようになりましたが、主流は米国式のエスプレッソ・スタイル。ですが、豆のブレンドにこだわったドリップコーヒーと美味しいケーキに代表される日本式の喫茶店文化も、連綿と息づいています。高級ホテル等を除けば、1980年代後半に日本のフランチャイズの喫茶店が展開を開始し、1990年代前半にはソウル江南(カンナム)の狎鴎亭(アプクジョン)洞に落ち着いた雰囲気の日本式の喫茶店が開業。日本のメディア等でも時折取り上げられるソウル清潭(チョンダム)洞のカフェ文化も、その発端は、世紀の変わり目頃にオープンした「珈琲美学」という日本式のカフェが先導したと言われています。
韓国を代表する観光地であり、日本との距離感も近い済州にも、当然、日本とご縁のあるカフェがいくつかありますが、そこは済州。お店によって、日本とのご縁のあり方は多種多様ですが、日本からの文化の風を済州が呼び込み、韓国全体に広げるという「済州」という場の役割が見受けられるのは、大変興味深い限りです。当館若手が探してきた、こうしたカフェの日本とのご縁のあり方を、紹介します!
その1:ベーカリーカフェ「Maison de Petit Four」~東京で学んだ製菓製パン技術!

まずは2014年に済州市内でオープンした「Maison de Petit Four」。若い頃から製菓・製パンに関心が高かったオーナーシェフの金庸奉(キム・ヨンボン)さんは、当時は韓国には製菓を学べる学校がほとんど無かったということで、1990年、一念発起して東京へ。東京の製菓学校と製菓店で5年間学びつつ、日本の技術と材料の質の高さ、種類の豊富さ、そして消費者も知識が豊富であることを体感します。その後、済州とソウルを行き来しながらコンサルティング業に従事しておられましたが、済州でベーカリーを開きたいという思いが募り、東京で働きながら学んだ思い出の製菓店の商号を掲げて、お店をオープンするに至ったそうです。
オープン当初は、済州で材料を調達しようにも、売り手側の知識が無く困難を極める等、パイオニアならではの苦労もされたとのことですが、頻繁な日本訪問と日本の製菓関係の知人との緊密な交流を通じて、日本の最新トレンドを商品に反映させるような努力を続け、今では済州市内に数店舗を構えるに至ります。済州道民の方からも「済州にもこんなに美味しいパンやケーキがあるんです」と、ちょっと誇らしげに紹介いただくこともあります。
そして、済州での実績をひっさげて、韓国本土への進出を果たします。2020年には全羅北道の全州(チョンジュ)に、さらに2021年にはソウルに出店するに至りました。

△お店のケーキと、食パンの説明書き。食パンは、神戸の有名な食パン店からシェフが技術ノウハウの伝授を受けて作っているとのことです。

△済州市の新市街地、当館からもほど近い老衡(ノヒョン)店には、創業者である金庸奉社長の、東京の製菓学校の卒業証書等が掲げられています。
その2:みかん畑の中のカフェ「プルベゲ」~店名が夏目漱石の「草枕」、日本の喫茶店文化の精神も継承

済州島の南西部、西帰浦市安徳(アンドク)面の自然豊かな集落に位置するカフェ「プルベゲ」。みかん畑に囲まれた済州の田舎の一般的な農家の家屋をお洒落にリモデリングした、韓国本土からの観光客も多く訪れる人気カフェです。
釜山出身でソウルで約10年間、日本式のダイニングを経営していたオーナーの許翼(ホ・イク)さんは、都会での生活に疲れ果てた時、夏目漱石の小説『草枕』に接し、「とかくに人の世は住みにくい」という主人公に共感。あらゆる煩悩を捨てて「空」の境地に達したいと、夫妻で済州に引っ越すことを決意します。そして、済州のいち集落で、「空」をコンセプトとし、「草枕」を店名とするカフェをオープンするに至りました。
カフェの空間については、日本の喫茶店をそのまままねるのは意味が無いとの考えから、済州の自然の中にいるような雰囲気を活かした造りにして、観光客にとっては自然の中でありながらお洒落な空間、済州の地元のお客さんにとっては「おばあちゃんの家に来たみたい」な懐かしさを覚える空間になっています。しかし、カフェの精神については、オーナー夫妻が日本で訪れた様々な喫茶店を巡って体感したことを、強く反映させています。
1点目は、過去を大切に維持しながらも現代的なものとして、過去と現在の繋がりを強く感じさせているという点。朝の大阪の喫茶店で、1杯のコーヒーを楽しみながら新聞を読む老人。蝶ネクタイを締めたマスターが、ドリップコーヒーを淹れる喫茶店。こうした日本の喫茶店で感じた経験から、古い農家の家屋を用い、ソウルの日本式ダイニングで使っていた古い道具を持ち込む等、過去からの繋がりを現代に活かしているということです。
そして2点目は、日本の喫茶店で学んだ接客文化を通じた、お店と地元との繋がりです。深く丁寧なお辞儀をすることを、オープン当初から心がけていたところ、自ずと地元の皆さんが積極的に協力してくれるようになり、マナーの悪い観光客が一時期増えた際にも、大いにサポートしてくれるようになったそうです。特に済州に住んでいる日本人としては、例えばエレベーターで体が触れ合ったら「すいません」と譲り合う等、ソウル等の韓国本土ではこれまであまり見られなかったような、日本にいるかのような生活習慣が見受けられることが新鮮に感じられたりしますが、済州の地元の皆さんも、お店の姿勢には大いに共感しておられる様子です。
このように、過去と現在の繋がり、そしてお店と地元の繋がりを大切にしたいという「プルペゲ」。今後とも、ただコーヒーを売るだけではない、お店と街が共生し、コミュニケーションを取りながら時間を共にする、文化的な空間作りをしていきたいとのことでした。

△カウンターには、お店のシンボルである夏目漱石『草枕』の韓国語版とともに、美味しそうなパンやケーキ、そして東京・合羽橋の道具街から取り寄せているという雑貨や駄菓子まで並んでいます。

△店内は、モダンでありながらも、みかん畑に囲まれた風景の中で、ゆったりとした気持ちでコーヒーを楽しめます。天気が良ければ、お庭で団らんを楽しむのも一興です。
その3:皆さんご存じのキャラクター!「ハローキティカフェ」

同じく西帰浦市の安徳面、済州空港から観光団地がある中文(チュンムン)地区に向かう幹線道路沿いの観光施設「ハローキティアイランド済州」。巨大なハローキティで大変目立つこの施設の中に「ハローキティカフェ」があります。
ハローキティは、言わずと知れた日本発のキャラクター。細部に至るまで全身全霊で「ハローキティと一緒の、ハッピーな日帰りの旅」というコンセプトを再現したカフェの空間は、愛らしいのひと言です。
施設を運営する韓国企業(株)ジェイコブのソ・ビョンス施設運営総括チーム長は、新型コロナの影響で、営業面でどうしても苦労があるのに加え、日本に行ってライセンス供与元の(株)サンリオと打ち合わせをするのも難しい状況にあることは否めないながらも、難局を乗り越えるべく頑張っておられるということです。そのような大人の悩みも、このカフェでハローキティの夢の世界に囲まれていれば忘れられる?とまでは言えないかもしれませんが、少なくとも楽しいひとときを過ごすことができるのは、間違い無いところでしょう。

△ラテもケーキも、もちろんハローキティ一色です。心を鬼にしないと、飲むことも食べることもできません…。

△ハローキティカフェが入っている「ハローキティアイランド済州」。一歩中に入ると、施設の中はハローキティだらけ。3階建ての建物は、ビンテージ物のキティちゃんを展示するハローキティ歴史館、キティちゃんの家や部屋、キティちゃん一家の夢を再現したコーナー、3D劇場等々のアトラクションで構成されており、中も外も、大量のキティちゃんと、ハローキティの世界観で覆い尽くされています。売店ではもちろん、済州オリジナルのハローキティグッズも売っています!
その4:済州でカフェ経営を修業する日本人の若者も!
もう一つ、ご紹介したいのが、済州でカフェ経営の修業に取り組む、日本人の若者のお話しです。ハンドドリップを中心にコーヒーの勉強をしてこられた檜垣祐太郎さんは、2020年から約1年間、済州島の最東部、城山日出峰の近くのカフェの運営を任され、バリスタとしてコーヒーを淹れながら、カフェのマネジメントの修業をされたということです。現在はソウル在住ですが、済州のカフェにはゲストバリスタとして定期的に訪れてきており、いずれは済州にカフェや交流スペースを開きたいとの夢を有しておられるということです。以上、カフェを通じた、済州と日本の、様々なつながりを見て参りました。今後とも、どのような新しい展開があるのか、楽しみです…!
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