【コラム】済州の教育水準の高さにびっくり、理由を聞いてまたびっくり
令和3年1月20日
「済州と日本のちょっといい話」は、2020年4月から2022年7月まで2年4か月にわたり済州で総領事を務めた井関至康前総領事が、済州の様々な場所と人々に出会い、済州道民の皆様からの協力を得て、取りまとめたものです。多様な分野で長い間続いてきた済州と日本の深い関係に触れる一助となれば幸いです。
※「済州と日本のちょっといい話」の記事内容は連載当時のものであり、一部内容は最新の状況と異なる可能性があります。
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韓国の大学入試競争が熾烈なことは、日本でもよく知られているところですが、1980年代前半に済州で高校を卒業された方から「自分の高校の同期生は、(韓国で最難関とされる)ソウル大学に50人以上合格した」という話を聞いて、驚いたことがありました。今のように、ソウル・江南(カンナム)の予備校に通わないと、ソウル大進学は事実上難しいとされるようになる以前は、人口70万に満たない(当時はもっと少なかったですが)済州道から、他の高校も合わせて100人以上がソウル大に進んだ年もあったようです。いろいろな違いは置いてざっくり比較してみると、例えば日本で、人口70万に満たない県から100人を超える東大・京大合格者が出ることを考えても、相当なことだと思われます。
また、1982年にソウル大法学部に入学した元喜龍(ウォン・ヒリョン)済州特別自治道知事は、済州の高校に通って、全国共通の大学入試をトップで通過(韓国では「全国首席」と呼ぶそうです)、したがってソウル大も当然トップ合格を果たし、当時の韓国では、離島の済州にこんな秀才がいるのかと、驚きをもって受け止められたそうです。
でも、なぜなんでしょうか?その要因を済州の皆さんに尋ねると、まず出てくるのが、「島流し」の話です。朝鮮王朝の時代、済州は「流配地」、つまり頭脳明晰ながらも権力抗争に敗れた科挙官僚が送られる島でした。その血が入っているから、末裔も勉強ができるのは、何も不思議なことではない、ということです。
そして、済州の皆さんからは、もう一つの要因も出てきます。それはなんと「日本との関係」です。初めて聞いた時は「えっ?ホントですか?」と思いましたが、お話を伺うとこういうことです。

第一に大阪との直航船があったことです。1923年頃から、済州と大阪を結ぶ直航船が開設されましたが、済州の皆さんからは、「自分の祖父(や親戚のだれだれ)は直航船で日本に渡って大学を出た」、「当時の済州では、ソウルなんかじゃなくて、より進んだ教育を受けようと、船で大阪に渡った」というお話しをよく伺います。そういえば、済州4・3記念館を訪問した際にも、1947年当時、北済州郡(現在の済州市)の小学校進学率が全国でもトップクラスだったという展示があり、「大阪との直航船があって、人の往来もあり、いろいろな文物も入ってきたから、教育水準が高かった」という説明もいただきました。
第二に、みかん農業に支えられた経済力です。西帰浦のみかん博物館では、済州のみかん農業が日本との関係で発展してきたことや、女性の社会進出にも貢献したことを教えていただきました。1970年代から80年代にかけての韓国では、みかんは経済的に大変魅力的な作物で、みかんの木一本で子供を大学に送ることができる「大学の木」と呼ばれたそうです。
今に至る済州の教育熱の高さについては、当館主催の「高校生日本語スピーチ大会」のレベルの高さからも実感させられました。ですが、これまで、すんなりと来たわけではありません。
まず、独立後の済州の歴史は、済州4・3事件の困難を乗り越えてきた歴史でもあり、多くの子供たちにとって、勉強ばかりしていられる状況には決して無かったと思われます。
また、冒頭の、1980年代に済州で高校を卒業された方は、済州島の中山間地域の出身ですが、「自分の村は、1970年代前半に在日済州人の寄付で電気が通るまで、電気が無かった。小学生時代、初めて家に電気がついた時のことは、鮮烈に覚えている」ともおっしゃっていました。済州全域に残る在日済州人の地方への貢献を讃える「功徳碑」を見ても、済州の多くの地域で、似たような状況だったようです。
日本でも、吉幾三さんの歌にあるように、津々浦々まで電気が通るようになったのは意外と遠くない過去の話ですが、済州においてはなおさらです。多くの済州の皆さんが、困難と不便を乗り越え、勉学に励み、済州の発展につなげてこられたことに、敬意を表したいと思います。
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