維民(ユミン)美術館とグラスハウス~済州の風土を体感する安藤忠雄氏の作品
令和2年10月23日
「済州と日本のちょっといい話」は、2020年4月から2022年7月まで2年4か月にわたり済州で総領事を務めた井関至康前総領事が、済州の様々な場所と人々に出会い、済州道民の皆様からの協力を得て、取りまとめたものです。多様な分野で長い間続いてきた済州と日本の深い関係に触れる一助となれば幸いです。
※「済州と日本のちょっといい話」の記事内容は連載当時のものであり、一部内容は最新の状況と異なる可能性があります。
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済州島の最東端にほど近い、海を見渡す景勝地・ソプチコジ。井関至康総領事は、ここに立つ、建築家・安藤忠雄氏の手による「維民(ユミン)美術館」と「グラスハウス」を、済州の建築専門家の皆さんと訪問しました。ご案内下さったのは、京都大学で博士号を取得された済州大学建築学部教授の李容圭(イ・ヨンギュ)さん、韓国建築家協会済州建築家会元会長の梁腱(ヤン・ゴン)さん、琉球大学で修士号を取得されたイ・ヒョンジさんのお三方です。
安藤忠雄氏が設計した「維民美術館」の特徴
「維民美術館」は、地下構造の建物。美術館の入口から地下にある建物の入口に至る、建物の屋上に当たる庭園の部分は、正面に海に浮かぶ噴火口・城山日出峰(ソンサンイルチュルボン、世界遺産)の印象的な姿を眺めながら、シークエンス(段階)を踏んで、植生、風、水、光、火山岩等々の、この地の自然を五感で感じなら歩けるよう、安藤氏が意図して設計したとのことです。この地の風土を最大限に生かし、訪れる人がそれを味わえる、素晴らしい空間になっています。
安藤忠雄氏が設計した「グラスハウス」の特徴
地下構造の「維民美術館」が「陰」の建築物だとすると、「グラスハウス」は「陽」の建築物とでも言えましょうか。トラス構造のガラス張りで、海と岩と草原の景観に見事に溶け込んでいるのみならず、レストランになっている内部からは、城山日出峰を含む海原の風景を存分に堪能できるようになっています。済州の地に、風土を生かした建築物がある意味
済州は言うまでも無く、美しい景色で知られた韓国随一の観光地ですが、安藤氏を含め、日本の(日本で建築を学んだ)世界的に著名な建築家の作品が済州に存在するということは、観光誘致にとどまらず、「その土地の風土を最大限生かした建築」という考え方そのものを、済州に、そして韓国全体に広めるにあたって、極めて大きな存在になっているとのことです。今回お話しを伺った皆さんからは、済州の建築界が、韓国全体をリードすべく頑張っていきたい、という強い意気込みを感じました。済州は、美しい自然も然り、韓国にあって最も日本に対する心理的な距離感が近いということも然りですが、中国・中原の治水という、自然をコントロールするという発想が根底にある儒教の文化が強い韓国にあって、済州は日本と同様、アニミズムや仏教の影響が比較的強く残っている土地柄ということも、多くの日本人が考えるような「自然との共生」という考え方を受け入れやすい一つの要因になっているのかな、と感じられるところもありました。
また、安藤忠雄氏は、東大阪市にある「司馬遼太郎記念館」の建物の設計者でもありますが、司馬遼太郎氏は『街道をゆく』シリーズの『耽羅紀行』で、済州のことを日本国内に広く紹介した人物です。梁元会長から、こうした司馬遼太郎氏と安藤忠雄氏と済州の「三角関係」(!)について指摘をいただき、日本人同士さえを結ぶ済州と日本の「近さ」に、改めて感じ入りました。
訪問関連フォト
△維民美術館の庭園。城山日出峰を見渡しつつ、この地の風土を堪能できます。
△維民美術館の建物の入口に降りていく通路。安藤忠雄氏の建築の特徴の一つである打ちっ放しコンクリートの壁と、済州の火山岩の壁が、対照的ながらも不思議な調和を感じさせます。
△グラスハウス。V字型の特徴のある明らかに人工的な構造ですが、周囲の自然としっかり調和しています。2階のレストランから眺める景色も絶景です。
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